我々は原將人という映画監督をよく知っている。原將人の撮った映画を観れば、そこに、原將人の思考や志向、そして嗜好が見て取れるからだ。原將人の映画と原將人の人格は同じだとさえ言える。
だが、新作『焼け跡クロニクル』を観て、驚きにも似た新鮮な発見があった。
そこには別の原將人がいたからだ。正確に言えば、それは原正孝なのかもしれない。
妻や息子から時として呆れられたりしながらも、根底では揺るぎない信頼を寄せられ、幼い双子の娘たちにとっては父親という存在の摩訶不思議さを学ぶ生きた教材として相対化される原の姿がそこにはある。この映画は原のみならず、その妻・まおりや子供たちを含めた原ファミリー全体の人格が宿っているのだ。原將人・原まおり共同監督作品となったのは当然だろう。
そしてこの映画には、互いが互いを思いやり、困難を克服しようとする一つの家族の強い意志が映像のどの瞬間にも満ち溢れている。火事で焼けた古い8mm映画のフィルムはあたかも火傷を負った原自身と同じ様に痛々しくもあるが、それでいて、そこに写し撮られた家族への想いという感情を消去することは出来ないのだという生命力を感じさせてくれる。
この映画は、原ファミリーの突然の被災、周囲の励ましや助力を得ての困難の克服、そして再生へと至る姿が克明に記録されているのみならず、様々な自然災害で被災した数多くの人々にとっても希望の光を見出すヒントとなるに違いない。――映画の完成へ向けて支援することは、誰かを励ますというだけでなく、逆に自分自身が励まされるチャンスを得ることでもあるはずだ。

―谷川建司(映画ジャーナリスト/早稲田大学政治経済学術院客員教授)